
民族楽器やシンセサイザ、コンピューターなどを使って 心象風景、あるいは夢の世界を音で顕現させる音楽家。 2003年ごろから電子音響プログラミング環境MAX/mspを使った サウンドインスタレーションやパフォーマンスを始め、 音のスペクトル解析による「見えない音」「倍音」の世界に傾倒。 インドネシアの伝統音楽ガムランとのコラボレーションや 即興演奏による身体表現者との共演など様々な演奏を経て 近年では音による心への影響、魂の癒しなどサウンドヒーリングを研究。 楽器作りWSや音瞑想の会なども主催。

ガムランの体験で音が宇宙なんだって感じちゃったんですよ
──「音は宇宙だ」みたいなことを前にどこかでおっしゃっていたと記憶してるんですけど
そのあたりの事を突っ込んでお伺いしたいのですが。
僕は生業としては整体やヒーリングをメインの場にしています。
一方、音に関わる事も同じくらいの時間やってきてまして「片手間の趣味というよりはライフワークとしてやっている」という言い方をするとかっこいいのかもしれませんが
どちらかというと「問い続けている」という感覚があります。
── いきなりむずかしい(笑)
問いというのはどういう事なんでしょうか?
こどもの時から「場の音」が好きだったんです。
風の音とか虫の声、車のエンジン音や夕ご飯の支度の音とか。
あと、市場で流れてるBGMが遠くで聞こえていたり、グラウンドの部活動の声が風で流れてきたり。
そういう空間に満ちている音が興味あったんです。
── なんだか小学校の放課後の公園とか思い出しますね
そうなんです、まさに僕の音の原風景って「放課後」なんです。
で、そうやって聴こえている音って常に変化してるんですよね。
知ってました?音って固定してないんですよ(笑)
── 確かに!言われてみればそうですね。
その頃はこどもだったので何も疑問に思わずただ音を感じるのが好きだなぁって思うくらいでしたが、大人になってから環境音・サウンドスケープという概念があることを知りました。
この世界はたとえ目をつぶっていたとしても音で感じられる。
音響の専門学校に通っていたのですが、入学時の課題で「身の回りの音をノートに羅列せよ」というものがありました。
能動的に音を採取しにいく行為ですよね、それって。
── 音を採集する。面白い!

フィールドレコーディングなどで実際にレコーダーに音を収録していく事で、より明示的に音が形になっていく感覚がありました。
見えないモノが見えるモノへと変質するんです。
そのもの自体は何も変わっていないのに「録音する」という行為によってはじめて無形のものが目の前に顕現したっていう感覚です。
── ううん…ちょっと難しくなってきちゃいました(笑)
ですよね(笑)
お前はいったい何を言ってるんだ?って感じだと思いますが。
すでに音はこの世界に満ちているんだけど、普段僕らは意識していないわけです。
カクテルパーティー効果っていうんですけど、耳に入ってきた情報は脳のフィルタリングによって指定されたものだけが情報として認知されるんです。
僕らは無自覚のうちにインプットされる情報からノイズを除外しているんです。

── 初めて聞きました。カクテルパーティー効果。
カクテルパーティー効果をはっきり自覚したのはフィールドレコーディングをした時ですね。
録音したデータを聴きなおすと「そぎ落とされてたノイズ部分」が結構な音量で鳴っているって事に気がついたんですよね。
つまり僕らは音をまともに聴いてさえいないんですよ。
そもそも聴こえない超音波とか低周波とかもありますけど、それ以前の問題として聞こえている音でさえ認知できていないんです。
そうなるとね、このインプットのでたらめさに対して、今度は自分がアウトプットしていく事で音の空間はいったいどのように変化していくんだろう?っていう疑問が出てきませんか?
この音を出すという行為が僕にとっては「問い」なんです。

── パン長さんにとっては音を意識していくことが世界と問答をしてる、みたいな事でしょうか?
そうです!まさにそんな感じなんですよね。
たかが音なんですけどね。
そこに対して本気で向き合っていくと今まで見えなかった地平線が現れるんですよ!
これはセラピーやヒーリングでも全く同じことなんですけどね。
本気で取り組むからこそおもしろい。
── 急に暑苦しくなってきました(笑)
いやでも、遊びだからこそ本気を出すんですよ。
真剣にやるからこそ楽しいんだと思ってます。
あ、それでね、今思い出した。
もうひとつ僕にとって大きな体験がありました。
ガムランで宇宙を感じちゃったんです。

── ガムランってインドネシアの伝統音楽ですよね?
そうです、そのガムランです。
友達がガムランのオーケストラやってて一回演奏させてもらったことがあるんです。
ガムランって青銅で出来たおっきな鉄琴とかゴングみたいな形なんですけど、その楽器たちが10個とか20個とかあつまったオーケストラなんです。
で、そのうちの一つを演奏させてもらうんですがみんなで同じフレーズを延々と繰り返して鳴らすんですね。
譜面通りに叩けてるときは全員が同じ音程を鳴らしている状態なんですけど、しばらくしたら自分の音がなんか聴こえなくなったんです。
あれ?叩いてるのに音が聴こえない??なんで??みたいな(笑)
で、また突然聴こえたりもするんですけど、なぜ聴こえたかって言うと演奏ミスったからなんですよ(笑)
── 間違えた時だけ音が聴こえるって不思議ですね
みんな同じ音なのに自分だけ音が違うから、そりゃ聴こえるのが当たり前なんですけど、でもその体験はすごく不思議でした。
あと、自分の音が消えてるあの瞬間って自分の体も透きとおってるっていうか、肉体の感覚が無くなってるんですよねー
体重0キログラム、無重力状態みたいな。
これスピリチュアルの人たちが良く言ってる「ワンネスの感覚」とか「宇宙との一体感」とかそういうやつやなぁってその時思いました。

── すごいですね!私も体験してみたいです。
ですよね、でもガムランじゃなくても音につつまれるだけで体の輪郭が消えたりもしますしね。
というか
その体験がもとでサウンドヒーリングや音を使った瞑想って全然アリやなって思って。
んで、いまはパンダ整体院でもコースとして取り入れたり、音瞑想のワークショップをいろんなとこで開催したりしているという訳です。
── サウンドヒーリングうけると宇宙を感じられたりするもんなんでしょうか?
まぁ、人にもよると思いますけど(笑)
でも受けてくださっている多くの方は音と自分の境界線がなくなる感覚になってるみたいですよ。
── 世の中不思議な事がまだまだあるんですね。今日は貴重なお話ありがとうございました。
こちらこそありがとうございます。こういう話をまともに聞いてくれる人は貴重なので嬉しかったです(笑)

